手元の預貯金に十分な余裕があるなら、「退職金などを使って一気に返済してしまいたい」と考える人もいるでしょう。一方で、「せっかく貯めたお金を大きく減らすのは不安」「団体信用生命保険があるなら、急いで完済する必要はないのでは」と考える人も少なくありません。
特に定年後は現役時代と比べて収入が変化しやすく、生活費だけでなく、住宅の修繕や車の買い替え、医療・介護などまとまった支出が発生する可能性もあります。
そのため、住宅ローンが残っているからといって、単純に「早くゼロにするのが正解」とは限りません。
では、残高1200万円の住宅ローンを前にしたとき、どのような点を確認すればよいのでしょうか。
まず知っておきたいのが「団信」の仕組みです。
団信とは、住宅ローン契約者に万一のことがあった場合などに、一定の条件のもとで保険によって住宅ローンの残高が返済される仕組みです。
契約している団信によって保障内容は異なり、死亡時だけでなく、所定の身体状態や特定の疾病などを保障するタイプもあります。
つまり、住宅ローンを残しておけば、契約内容に応じた保障を維持できるという特徴があります。
ただし、団信が付いているからといって、住宅ローンをそのままにしておくことが必ず有利になるわけではありません。
そこで次に考えたいのが、繰り上げ返済によって何が変わるのかという点です。
住宅ローンを早く返済する最大のメリットは、これから発生する利息を減らせることです。
残高が1200万円ある場合、そのまま返済を続ければ元金だけでなく、契約している金利に応じた利息も支払っていくことになります。
返済期間が長くなるほど、また金利が高いほど、将来的な利息負担は大きくなります。
一括返済をすれば、それ以降の住宅ローンにかかる利息を抑えられるうえ、毎月の返済そのものがなくなります。
定年後の家計をシンプルにしたい人にとっては、毎月の固定支出が減ることも大きなポイントです。
しかし、ここで忘れてはいけないのが「手元に残るお金」です。
例えば、預貯金が1500万円あり、そのうち1200万円を住宅ローンの返済に充てれば、単純計算で残る資金は300万円になります。
住宅ローンがなくなった安心感は得られても、老後の生活資金まで大幅に減ってしまえば、別の不安が生まれる可能性があります。
定年後には、毎月の生活費に加えて、家電や車の買い替え、自宅の修繕、介護や医療に関する費用など、予想していなかった支出が発生することもあります。
だからこそ、「住宅ローンを完済できるか」だけではなく、「完済した後にどれくらいの資金を残せるか」を考えることが重要になります。
また、住宅ローンの金利が低い場合には、手元資金をそのまま確保しておくという考え方もあります。
資金を運用することでローン金利を上回る収益を得られる可能性もありますが、運用には価格変動などのリスクがあります。
「運用したほうが得になる可能性がある」ということと、「必ず得になる」ということは同じではありません。
では、団信を維持するために住宅ローンを残しておく意味はあるのでしょうか。
これは一定の意味があります。
例えば、住宅ローンを完済した後に保障対象となる事由が発生しても、すでにローンは存在しないため、団信によって返済される残高もありません。
一方、ローンを残した状態で団信の保障対象となる事由が発生した場合には、契約内容に基づいて残りの住宅ローンが返済される場合があります。
その場合、手元に残していた資金を生活費など別の目的に使える可能性があります。
ただし、「将来、団信によってローンがなくなるかもしれない」という理由だけで返済を続けるのも慎重に考える必要があります。
保障対象となる事由が発生しなければ、当然ながら住宅ローンの返済は続きます。完済まで長期間かかる場合には、その間の利息も考慮しなければなりません。
ここまでを見ると、「一括返済」と「そのまま返済を続ける」のどちらにも、それぞれ異なるメリットがあります。
そして、実はもう一つ選択肢があります。
それが、一部だけ繰り上げ返済する方法です。
例えば1200万円の残高があるからといって、必ず1200万円すべてを返済する必要はありません。
500万円を繰り上げ返済して、残りの700万円は手元に残すという方法も考えられます。
これなら将来の利息負担をある程度減らしながら、まとまった生活資金も確保できます。
もちろん、実際にどの方法が適しているかは、住宅ローンの金利、残りの返済期間、毎月の返済額、預貯金、年金収入、今後の生活費、そして団信の保障内容によって変わります。
特に重要なのは、定年後に必要になる資金を先に確認しておくことです。
住宅ローンを完済した結果、預貯金がほとんど残らないのであれば、利息を減らせても資金繰りの余裕が小さくなります。
反対に、十分な生活予備資金を確保したうえで、住宅ローンの金利負担が気になるのであれば、繰り上げ返済によって将来の支払いを抑える方法も検討できます。
「団信があるから返済しないほうがいい」「利息がもったいないから今すぐ完済したほうがいい」と一つの理由だけで決めるのではなく、複数の条件を並べて考えることが大切です。
特に定年後は、「ローン残高をゼロにすること」と「手元資金を十分に残すこと」のバランスが重要になります。
一括返済を検討するなら、まず住宅ローンの残高と金利、残りの返済期間、今後支払う予定の利息を確認しましょう。
そのうえで、返済後に生活費や予備資金としていくら残るのか、団信にはどのような保障が付いているのかを確認します。
もし全額返済すると資金が大きく減ってしまうのであれば、一部繰り上げ返済という選択肢も含めて比較すると、判断しやすくなります。
定年時の住宅ローンは、「借りているから早く返す」という単純な問題ではありません。
利息を減らすこと、毎月の支出を軽くすること、手元資金を確保すること、そして団信の保障を維持すること。
この4つをそれぞれ確認したうえで、自分の老後の資金計画に合った返済方法を考えることが重要です。
